白神山地とは

 白神山地は、青森県岩崎村から秋田県田代町にかけての県境を東西に走る尾根を中心に広がる標高1000メートル前後の山々が連なる約13万ヘクタールの広大な山岳地帯の総称です。

 

 現在、この山地の2/3は伐採などで森林がなくなっており、森林地帯として残っているのは、1/3の45000ヘクタールほどです。その中核部には、川の源流部が集中し、ブナを主体とする原生的な落葉広葉樹林が、ほとんど手つかずのまま世界最大級の規模で残っています。この部分16971ヘクタール(青森県12627ha、秋田県4344ha)が、1993年に世界自然遺産に指定されました。

 

 世界遺産地域核心部は、青森県側は指定27ルートが入山可能ですが、秋田県側では入山禁止となっています。しかし、45000ヘクタールのうち世界遺産の外側にも核心部と変わらず原生的なブナ林は残っており、その部分は入山可能です。

 

 白神山地は、2400万年~510万年前は海底でした。この頃海底火山から噴出した火山岩や火山灰質の堆積岩で形成されています。火山活動などによってこの地域の地層が堆積している頃、時期を同じくして海はだんだんと後退し、陸地が隆起し始めて山容をなし、約200万年前頃、現在の東北全域が陸上に現れました。この辺りは、日本でも有数の隆起地帯で、今でも年1ミリほど隆起しています。

 

 地質は、花崗岩を基盤に堆積岩とそれを貫く貫入岩で構成されています。崩れやすい地滑り地形です。堆積岩の中には、まれに植物や海生の化石もみつかっており、これらの化石は、白神山地が、海の底だったことを示す証拠の1つとなっています。また、火山活動の元になる地下から上がってくるマグマは、周辺地域に豊富な鉱物資源をもたらしました。

 

 ブナは、氷河期が終わったおよそ12000年前頃から繁茂し始め、北半球の冷温帯に分布していきました。日本では、やはり12000年前頃、積雪量の増加とともに新潟平野以南の日本海側の多雪地帯を中心に茂り始め、8500年前頃、気候が変動していくにつれて、寒冷な東北地方から北海道にかけて拡大してブナ林が成立したと思われます。それは、縄文時代に当たります。

 

〜世界遺産とは〜


 国境を越えて世界的に価値をもち、人類共通の財産といえる貴重な自然や文化財を守ることを目的として、ユネスコと世界自然保護連合によって起草され、1972年に発効(20ヶ国批准)した世界遺産条約=世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(Convention for the Protection of the World Cultural and Natural Heritage)に基づいています。自然遺産、文化遺産、複合遺産があります。
 日本は1992年6月批准。1993年12月、白神山地と屋久島が自然遺産に、法隆寺と姫路城が文化遺産に登録されました。2020年7月現在、締約国193ヶ国、世界遺産総数1126ヶ所(文化遺産872、自然遺産213、複合遺産41)、日本は、自然遺産4、文化遺産19、合計23ヶ所です

参考:市川善吉・佐尾和子『白神のブナと水とけもの道』海洋工学研究所出版部、2002


〈 世界遺産への道 〉

1982年
青秋林道着工

1987年
青秋林道青森県境まで到達
水源涵養保安林解除通知
異議意見書署名集める(約13000通)

1990年
ブナの働きが見直され、林野行政見直し
森林生態系保護地域指定
青秋林道建設中止

1992年
自然環境保全地域指定
世界遺産条約批准

1993年12月
世界自然遺産登録

 
 
〈 ブナの森  Beech Forest 〉
 
 

 成長が遅く、

水分を含み堅いの

 材木には向かない。

 

役に立たない木と言われ

 伐採され杉が植林されたが、

とても貴重な木。

 

水源に多く、保水力があり

「緑のダム」といわれている。

 

多くの生物に恵みをもたらす

「母なる木」。

 

空気(光合成)、

水、光、腐葉土(栄養)。

 

丈夫な根で山の崩壊を防ぐ。

 

東日本はブナで覆われていたが、

戦後伐採が進み、

いま広域に面として残っているのは、

白神山地のみ。

 

縄文時代より人々は

 ブナ林に守られ、

 ブナ帯文化を築く。 

 

 

 森は海の恋人

 

 ①ブナの森の腐葉土を通った栄養ある水が、川から海へ下って海の生物を育てるとは?

 ・海の生物を育てる植物プランクトンの成長には、鉄分がかかせません。

 ・ところが、水の中の鉄分は酸素と結びついて酸化鉄となり、海底に沈みます。

 ・酸化鉄は粒子が大きいので、細胞膜を通せず、役に立ちません。

 ・圧倒的な鉄不足です

 ・植物プランクトンの養分は、チッ素、リン、カリウムなどです。

 ・チッ素は、海中では、硝酸塩の形で溶けています。

 ・植物プランクトンが硝酸塩を取り込むには鉄分が必要です。

 ・それは、硝酸塩を還元してチッ素を取り出すためです。 

 ・また、光合成に必要な葉緑素ができるためにも鉄分は必要です。

 ・川の水も鉄分を酸化させますが、酸化する前に別の物質と結びついた粒子の小さな鉄分も含まれています。

 ・これがフルボ酸鉄です。

 ・落葉樹の葉が腐葉土になる時、フルボ酸ができます。

 ・これは鉄と仲が良く、フルボ酸鉄となります。粒子が細かくて酸化しません。

 ・フルボ酸と鉄は、しっかり結びついたまま海まで行きます。



鎌田孝人撮影
鎌田孝一撮影
鎌田孝人撮影
出典:環境省「世界自然遺産 白神山地マップ」